タイプラボ・フォントNEWS 2007年01月 第37号 【書体デザイナーに聞いてみました】 文/佐藤 豊

最近は、こんな感じ……

●サイト開設はいつでしたか
トップページに表記してあるように、1996年の4月です。

●サイト運営は大変ですか
いちおう10年以上過ぎて内容が充実してきましたから、最近はそれほどでもないですね。ただ、書体作者を傷つけるような低レベルなコメントがあると、ちょっと落ち込んだりします。
多くの方が、読みやすく判りやすいサイトだとコメントしてくれるんですけど、ときどきヒドイことを書いてくる人もいるんです…。たしかに、私がひとりで書体制作の合間にサイトを作って運営しているので、素人っぽいと言われても仕方がないですが。

サイトとしての要素は大分そろいましたので、全体の再構築も考えてはいますけど…。10年以上、イメージを大きく変えないように増築増築って感じで内容を増やしてきましたから、再構築するって大変なんですよ〜。新規に作るのより手間がかかるかも知れない。(2008年10月にリニューアルした)

●無料お試しフォントの反応はどうですか
いちおう受け入れてもらえていると思いますよ。なかには「使える漢字をもっと増やせ」とか「なぜ、オマエの作った書体を全部無料で提供しないんだ」などと、無茶なことを言われる方もいます…。

このサイトでは、自分がデザインして制作した(一部共作もあり)フォントを頒布しているのですが、「もっとたくさんのフォントを集めて無料で頒布しろ」なんて、コメントしてくる人もいますね。
ウチは、フォントを集めて作者に無断で配るような違法サイトではないんです!!!!
あくまでも、このサイトでダウンロードできるのは、タイプラボのオリジナルフォントだということが理解されていないのが、ちょっと残念ですね。最初のページをもう少し読んでくれればなぁ…。

また、江戸文字があればイイとか、毛筆フォントがあればイイとか、こういうフォントを作ってくれとか…。そういうものが欲しいのは判りますけど、それぞれ専門がありますからね。オペラ歌手に演歌を歌ってくれ、と注文するようなもんです。すべての趣向のフォントを揃えるなんて無理です。ウチは書体の総合商社じゃないんですから(笑)。

はじめに…
http://www.type-labo.jp/Hajimeni.html

●フォント制作に使用している道具やソフトウエアなどを教えて下さい
◎アイデアやイメージを書き留めたりするとき…
近くにあるメモ用紙とかA4のコピー用紙、鉛筆(最近は使わない)、水性ボールペン(赤と黒)、パソコンを使うこともある。

◎データ化するとき…
スキャナ(書体によって使う)、パソコン(Macintosh)、プリンタ(結果を確認するために)、
アプリケーションソフトは、アドビイラストレータ(最近はあまり使わない)、ストリームライン(セプテンバーのとき使った)、フォントグラファ(文字を描くのはこれがメイン)、漢字エディットキット(2バイトの日本語フォントにするとき)、テキストエディター数種類(テストプリントするとき)。

セプテンバーができるまで
http://www.type-labo.jp/Septdekirumade.html

●制作する時の手順とか流れは、どんな感じですか
制作を決断するまでに、時間がかかりますね。
私の場合「こういう書体を作ってくれ」という依頼で、書体をデザインすることはありませんから。
いつの間にか頭の中で、作りたい書体がボヤ〜と発生していますね。これまでの体験やさまざまな情報などから得たものが、常にすこしずつ熟成されています。

イメージがはっきりしてきたら、紙に描いたりパソコン上で形にして確かめます。この段階で、無理だと判断する場合も多いです。頭の中で考えたことが、実現可能とは限りませんから。
これでいこう!と決断したら、次は、どうやってデザインしていくのが効率的か考えます。
その書体のデザインによって、それぞれ最良のやり方は違うと思います。 

できるなら最短時間で終わらせたい…といつも考えていますが…。結果的には、どんな方法でやっても、数千文字をバランスよく仕上げるのには膨大な時間がかかります。
あちらに手を加えたら、こちらも直さないといけない…。数千文字が互いに影響しあうんですね。百科事典とかをまとめあげるのと似ているんじゃないでしょうか。

方法が決まったら、あとは延々と文字を描き続けるわけです。この段階がつらいかな。いつ終わるんだろうと、残りの文字数とカレンダーを交互に眺めています。
JISの1区分(94字)ごとにプリントして確認しながら作ります。とりあえず、決めた文字数全部が描き終わったら、次はフォント化してまたプリントです。
さまざまなテストプリントを見ながらの修正作業も時間がかかりますね。文字を描いた日数と同じか、それ以上を修正に費やしているかもしれません。

何度も何度も修正とプリントを繰り返して完成となりますが、どの段階で完成と判断するかが難しい。はっきりいって満足するのは無理です。
どこかから依頼されての仕事だったら、納期がありますから、そこでとりあえず完成となるのでしょうね。
私の場合、エネルギーが切れたときですかね。満足を求めたら終わりなんか無いんですよ、この仕事に。でも、もうこの辺でいいか…という時期が訪れるんですね。その書体と向き合う気力とかが衰えてきて…。次の書体を作りたいって気持ちも発生してくるし(笑)。経済的な問題もありますから、一生ひとつの書体をいじくっているわけにはいかない…。

アニト物語
http://www.type-labo.jp/Anitostory.html

ファミリーを作る
http://www.type-labo.jp/Family.html

●日本語書体ひとつを完成させるのにどのくらいの期間が必要ですか
制作を始めるときは、単発の総合書体で2〜3年を予定しているんですが、実際にはもっとかかってしまいますね。
「セプテンバー」が5年、「あられ」は7年かな。いま制作中の9ウエイトファミリーの書体は、もう6年目に入りました。細い5ウエイトを頒布できるまで、あと2年くらいですかね。

●制作中に悩むこと、難しいと感じることはありますか
その書体が使われるサイズですかね…。昔の印刷活字と違って、デジタルフォントは自由なサイズで使われてしまいますからね。小さいとき大きいとき、どちらでも見苦しくならないようにするのが難しい。
いくら制作者側が「この書体は本文用です」って言っても、そんなコトにはあまり関係なく使われてしまうのが現実ですからね。

あと、私はほんの少しだけ乱視なんですよ(数年前に判明)。メガネで矯正してますがね。テストプリントで細部を確認するとき、裸眼で見てしまうこともある。私が見ている文字の形と、正常な人が見ている形は違うんじゃないだろうか…とか。そういう細かいことも悩みます。これまでずっと文字デザインの仕事をしてきてるんだから、問題ないんじゃないか…という気もしますが。

●タイプラボがデザインした書体は、現在どんな形で販売されていますか
これまで、あちこちに書体デザインを提供してきましたが、現在は、フォントワークスさんと、モリサワさんと、私自身の頒布活動がメインです。
その3つがバランスよく経済部分を担ってくれるのが理想ですね。

これまでの提供先など
http://www.type-labo.jp/Typelabo.html

フォントワークスから販売されている書体
http://fontworks.co.jp/font/designer/yutakasato.html

モリサワから販売されているかな書体
(ハッピー・わんぱく・タイプラボ・墨東・キャピー)
http://www.morisawa.co.jp/font/fontlist/listview.php

●書体デザイン以外にどんな仕事をしていますか
昨年の夏まで、某旅行情報誌の表紙題字を10数年間デザインしていました。
それ以外にも、たまにロゴタイプやマークのデザインを依頼されますね。

●それらの仕事と書体デザインの仕事、時間とかエネルギーの配分は、どのようにしていますか
ホントは、依頼される仕事はあまりやりたくないのです。納期とかムチャ言われることも多く、書体の制作スケジュールが崩れますから。
デザイン報酬がはっきりしていない仕事は請けません。そのあたりのコトがいい加減な依頼者も多いですね。
やるとなったら、ガーッと集中してイイ仕事を心がけますよ。じつは昨年11月頃からロゴタイプの仕事を請けてまして、現在も制作中です。

●タイプラボが頒布しているフォントがTrueTypeなのは、どうして
現時点で一番多くの方々が利用できるフォントフォーマットがTrueTypeだと、私が思っているから。
PostScriptフォントとか、OpenTypeフォントを使いたい人は、前述のフォントワークスやモリサワから販売されているタイプラボ書体を使ってください。タイプラボは、できるだけ多くの人に、手軽にフォントを楽しんで貰いたいと思っています。

●商品版の収容文字種をJIS X 0208-1997にしているのは
これも、現時点で一番多くの方々が無理なく利用できる規格だと、私が思っているからですね。

商品版フォント収容字種(総合フォント)
http://www.type-labo.jp/hanbaijisyu.html

●無料のお試し版フォントを使って仕事をしている人について、どう思いますか
 タイプラボとしては、困っているんじゃないんですか?

別に困りはしませんけど(笑)。試供品を集めて1シーズンの化粧品代を浮かす人もいるでしょうし、デパートやスーパーの試食コーナーで栄養補給する人もいるかもしれません。
それと同じことです。それなりの努力や工夫が必要だったり、それぞれの事情もあると思いますから。
生活に余裕ができたら商品版を購入してください。その方が圧倒的にラクで便利だと思います。

よくある質問…Q & A
http://www.type-labo.jp/QandA.html

●頒布しているフォントで人気があるのはどの書体ですか
現在は、無料版・製品版ともに、セプテンバーですね。2番目は、Windowsユーザなら「アニト」か「えれがんと」、Macintoshユーザだと「あられ」または「えれがんと」。そんな感じです。

昨年秋に、無料版の書体ごとの登録システムをやめて、1回の登録で無料版全書体をダウンロード可能なシステムにしたら、とりあえず全てのフォントをダウンロードしてしまう人が多く、書体ごとの人気の差がはっきり掴めなくなって、ちょっと困ってますけど。

●自分の書体で一番好きなのはどれでしょう
いま無料頒布しているフォントの中なら「セプテンバー」かな。「えれがんと」も好きだし…。他人に依頼されて作っているわけでなく、自分の意思だけでデザインしてるんですから、どれが好きでどれが嫌いってムズカシイですね。

●文字に興味を持たれたのは、いつ頃で何がきっかけだったのでしょう
中学3年の頃に雑誌広告で、レタリングという技術とそれの通信教育を知り、工業高校進学と同時に文字をデザインする勉強も始めました(高校のほうは半年ほどで辞めた)。

●書体デザインをする際に心がけていること、また、どんな勉強とか才能が必要でしょうか
◎心がけているのは…
使いたくなる、記憶に残る、他の書体と区別ができる、しつこくしない、イヤラシクしない…。
使う側の人にも、読んだり見たりする側の人にも、好かれるように……ってところでしょうか。

◎勉強とか才能…
好奇心とか観察力は必要でしょうね、あらゆる面で。あとは、ありきたりな話ですが根気ですかね…。10年ぐらい本気でやると、自分の力が少し見えてくる気がします。
若いとき一緒にこの仕事を志した仲間のほとんどは、飽きてヤメちゃってますね…。

●影響を受けた書体や書体デザイナーは
タイポスでしょうね。グループ・タイポの活動とかも含めて。明朝・ゴシック・丸ゴシック程度しか書体として意識してなかったころに、颯爽と現れましたからね。
あと、写研が開催した「石井賞創作書体コンテスト」には刺激されましたね。このコンテストが存在しなかったら、わたしは書体デザインを仕事にすることはなかったと思います。

がんばれタイポス
http://www.type-labo.jp/random.html

石井賞受賞
http://www.type-labo.jp/Ishiishoh.html

●今後のフォント制作の予定は
いまは、総合書体D(仮称)の制作に集中していますね。この書体の見通しがついたら、セプテンバーの太いやつを作りたい。それとは別に、作りたい書体の構想は常にもってます。

D書体
http://www.type-labo.jp/Sohgoh.html

●ということで、新春特別企画の自作自演インタビューを終わります。

 


リクルート 月刊アントレ別冊『独立事典2006→2007』 個人名で勝負するための条件  取材・文/岡部 恵

好きな仕事は自分で守る。量より質を重視して、スキルアップのために自己投資を。

1種類のフォントを完成させるまで最低でも3年、平均で5、6年はかかるんだ。約8000字を一文字一文字デザインするからね。欧文数字、ひらがな、カタカナ、漢字のJIS第2規格まで。それに太さも4〜9種類作るから、膨大な数だ。

道具がペンと定規からコンピュータへと変わっても、作業の手間や時間は変わらない。ワンクリックで流用というわけにはいかないよ。偏が同じでも、つくりとのバランスで一文字ずつ変えるから。これを僕は30年、企業からの依頼を受けずにやってきた。企業が商品化しなければ、無駄になるかって? 最近ようやくだけど、そうでもないんだな、これが。

初めの独立は時期尚早で、経済的にも苦しんだから、2度目の独立後は何でもやった。レタリング、ロゴや本のデザイン、地図、版下作成まで。でも、そのうち使い捨てにむなしさを感じ始めたんだ。おまけに内容いかんではデザインも評価されない。自分のつくったものだけで勝負したい、それが書体だった。でも、依頼仕事となれば制約も多い。だから自主制作してロイヤリティで食っていこうと。書体の企業へ売り込みに行ったけど、ほとんど相手にされなかった。

まぁ、勉強になると思って、いろんなコンテストに応募していた。ところが受賞すると、今まで会ってもくれなかった企業が、手のひらを返した態度になる。腹が立ったけど、今思えば、こういう相手を上手に利用しないといけないね。いざ契約となっても、僕の自主制作で、企業は投資していないわけだから、販売に力を入れない。商品化も遅い。なのに、販売すれば高額。

僕がWebで販売を始めたのは、そういう問題をクリアしたかったから。音楽CDくらいの手頃価格で、いろんな書体を楽しんでほしくて。それに数年越しの作品だからね、商品化をずっと待つのも悲しい。自分で売れば、ユーザーから反応や使用感をじかに聞ける、これはやっぱり嬉しいよね。

フリーランスなら、自分しかつくれない作風でないとね。そのためにも、感性を磨くこと。たとえばコンテスト。1位でもたいした賞金じゃないし(笑)、企業が商品化してくれる保証もない。ほとんど無償。でも、自分のためになる。

どうしても、人って仕事の量で安心しがちだけれど、肝心なのは質だからね。労が多いだけの仕事なら断る。そういう相手とは、いつかケリをつける時が来るから。断っても食えるように複数のクライアントを持つことだ。そして空いた時間で、レベルアップになる仕事の拡大や勉強をする。好きな仕事なら自分で大切にしないと、誰も守ってくれないからね。そのためにも仕事は選ぶべきだよ。

デジタル時代へと移行した80年代で業界は大きく変わった。それまで僕が一生懸命練習して習得した技術を、Macで簡単にできた時には、誰にでもできる、ヤバいと思ったね。けど、徐々にそうじゃないとわかってきた。ワープロを使えても誰もが小説家じゃないのと同じ。図形や文字の構造・仕組み・デザイン、そういう知識や力があるのが前提で、コンピュータはあくまでも道具。どう使いこなせるかの問題。当時のコンピュータは高価だったから、もとを取ろうと必死で勉強したし、その時間をつくる努力もした。道具の進化に合わせて自分も進化しないと。

今も新作に取り組んでいるけど、そういうことをWebサイトでも公言して、自分にしばりというか、目標を立てるのもフリーランスには大切。今、制作中のフォント?もう5年越しだけど、まだ数年はかかるかな。お楽しみに。

 


日本グラフィックコミニュケーションズ工業組合連合会 プリプレス情報誌 gcj 2003年2月号 gcj 紳士録

書体は手頃な価格で提供し広く普及させることが重要だ

書体を造りつづけて27年になる佐藤豊さん。これまで数々の書体を造ってきた。写研やモリサワのタイプフェイスコンテストでは何度となく入賞し、書体づくりでは第一人者と言っても過言ではない。
写研用の写植文字盤を自主発売した経験もある。現在、造った書体をインターネットで販売するネットビジネスにも余念がない。書体について多方面から話を伺った。

書体デザインの仕事を始められたは経緯は…。
実は二十歳前からずっとデザインや版下製作の仕事をしていて、カタログやパンフレットを中心にさまざまな印刷物を造っていたわけですが、書体にはずっと興味を持っていたので、自分でデザインしてみようと考え、取り組み始めたわけです。

書体の勉強をしながらコンテストなどに応募したりしていたのですが、最初に日本語フォントで収入を得たのは、写研さんに持ち込んだ見出し用の書体です。1文字いくらで写研が買い取るという契約でしたので、こちらは売ってしまったらそれっきりという仕事でした。しかも、書体を納品したとしても、いつ世に出るという保証がありませんでしたから、やり切れない気持ちになりましたね。

それでは割が合わないということで、それ以後は、自費ですべて制作してから書体メーカーに持ち込んで商品化してもらう、というのが私の仕事のスタイルになりました。

書体をデザインし完成させるのは大変なことだと思いますが…。
そうですね。最低でも7000文字前後をデザインするわけですから、一通り書くだけでも最低2年くらいは掛かりますね。その間に私自身の考えも変わってきますし、見直せば納得できない文字も出てきたりして書き直しますから、さらに数年は掛かってしまいます。

写植機メーカーが相手の場合だと、私が渡した原稿からテスト用文字盤を造り、印画紙にテスト印字されてから、やっと私が結果を見ることができるわけです。しかし、そのテスト文字盤が造られるのは写植機メーカーの都合に左右されるわけです。いつ文字盤ができ上がってくるかこちらには全く分からない。いらいらして思うようには事が進みませんでした。

そんな状況で書体デザインを続けても埒が明かないので、自費でメーカーに文字盤を発注して自分で販売したこともあります。そんなことを続けているうちに、自分で書体を完成させてから、ビジネス展開していく方法を採るようになっていったわけです。

書体づくりについて相当情熱がないとできないことですよね。
まあ、そうですね。やはり書体が好きなんでしょうかね。最近ようやく私が考えている書体の流通環境が整ってきたかなと感じています。書体を買う人たちも、街のお店やインターネットを利用してフォントが買えるようになり、パソコンで自由に書体を使えるようになってきました。書体を造る側、使う側、どちらにとっても喜ばしいことだと思えます。

どのような方法で書体をデザインしているのでしょうか?
特に変わったやり方はしていません。私の場合、最近は文字の原画を紙に描かずに、直接パソコンのモニタ上でデザインすることが多いです。アナログだろうとデジタルだろうと、書体の出来にはあまり関係ないですね。ただ、デザインする立場として気を付けていることは、既製のデザインと似たものを造らないということです。既製書体をちょっと変形させただけの書体とか、「ズル」をして造った書体というのは大キライですね。

私自身は一目見て今までの書体とは違うデザインだと解るような書体を造っているつもりです。ある程度のインパクトがあって新鮮だと思われないと商品としての価値が薄れますから。私がこれまでデザインしてきた書体には、一貫して共通した「何か」があると言ってくれる人もいますね。また、どうしてもこの書体が欲しい、この書体じゃなきゃ駄目なんだと思わせる魅力的なデザインをするように心がけています。

近年、非常に増えているデジタルフォントについてどう思われますか?
個人的には書体は多くあるに越したことはないと思っています。印刷人は良いものを選ぶ目を持っているはずですから、世にある多くの書体から適切なものを選んで使っていけば良いだけの話だと思っています。

また、デジタルフォントのレベルが低いという人達がいますが、それは、そういうフォントを仕事に選んだ本人たちの目と技量が悪いということを意味しているに過ぎないでしょう。本文ではこの書体、見出しではこの書体というように、いくつかの定番書体を自分では何も考えずに使っていた人達は、書体について吟味したり選択する力が身についていないのかもしれませんね。

若いデザイナーの書体に対する考え方は、昔とは随分違ってきていると思うのですが?
時代が変わってきていますから、書体の価値観も変わってきているでしょう。ですから、造る側のデザイナーの意識も変わってくると思います。食べ物も着る物も変わってきているように、何でも時代と共に価値観は変化していますからね。
年輩の人が、今の若い人は駄目だと言うように、誰もが自分が感性豊かな時期に身に付けた価値観、それが最高だと思いこむものです。ですから、それと違ったものが出てくると拒否反応を起こすわけです。

デザインに対する考え方も変わってきているのでしょうか。
いつの時代でも良いデザインは残っていくとは思います。しかし、良いデザインの概念は時代と共に変わってくると思います。また一方で、完成度が低いといわれる書体でも、本文ではなく、書籍の装幀や端物の見出しなどに大きく使うことで、その書体の個性を引き出し面白くさせることもできます。要はいかに使うかという使い方の問題なんですね。本当のプロならばそれができると思いますが。

デザイナーとして書体の販売はどうされているのでしょうか?
昔と比べれば、やり方によっては売りやすい時代になってきているのかな。私は自分の造りたい書体を自分のペースで造って、最近はそれをネットで販売する方法を採っています。

デザインからフォントデータの制作、そして販売まで全部1人でやっているわけですが、その方が私にとってはやりやすいからです。
でも、普通は全部1人でやるのは面倒ですから、商品化とか販売は専門の会社にまかせて書体デザインだけするというのが一般的でしょうね。

ネットで無料頒布されてらっしゃるということですが…。
ええ。例えば1年ほど前に発表した「あられ」という書体は現在1万人以上の使用登録者がいます。かな書体「キャピー」と漢字書体の「アニト」を組み合わせた「キャパニト」は、提供し始めて4年程になりますが、2万人を超えています。

無料頒布フォントには、使用できる漢字数に制限を設けています。お試し用として使っていただき、気に入ってもらえば漢字フルセットのものを買っていただくという仕組みです。
商品版は1書体3000円と購入しやすい価格設定にしています。書体を使いたい人が世の中には沢山いると思いますが、これまでの書体の値段は高すぎたと思いますね。一般の人たちにもプロがデザインした書体を気軽に使っていただきたいと思い、私はできるだけ安く提供しているわけです。

多くの方に使っていただいて喜んでもらうことが書体にとって最も大事なことではないでしょうか。これからも多くの人に喜んでもらえる書体を造りつづけていきたいと思います。

 


聖教新聞(聖教新聞社) 2001年7月12日 文化欄コラム「フォントとパソコン」

使い分ける楽しみを味わってほしい

いま皆さんが読んでいる紙面の文字は、1文字ずつ人の手によってデザインされたものです。新聞・雑誌・書籍、そしてテレビ番組などで使われている、文字書体(以下フォント)は、すべて誰かがデザインしたものです。

ひと昔前まで、フォントを使うのは印刷業者とか専門のデザイナーに限られていましたが、最近は個人のパソコンでも変化に富んだ色々な種類のフォントが使えるようになりました。
パソコン用の日本語フォントには最低でも6879の文字が含まれています。この文字を1つずつデザインしていく。それが「書体デザイン」という私の仕事なのです。

漢字・英数字・ひらがな・カタカナ・各種の記号など、さまざまな用途の文字をデザインしてフォントが完成するまでに、私の場合4、5年かかります。フォントは、音楽や文学そして美術などと同じように、多くの能力・労力が費やされた創作物です。フォントを違法にコピーされてしまうと、制作者に報酬が還元されず、仕事として成り立たなくなります。

ですから、一部のフォント販売会社は利益を守るために、価格を高く設定し、さらに特殊なコピープロテクト処理をフォントデータに施しています。そのためにフォントは、一般のパソコンユーザには、扱いにくく購入しずらいソフト製品になっています。私がデザインしたフォントも同じような状態で販売されていました。

しかし、TPOに合わせて衣服を着替えるように、もっと多くの人達にフォントを使い分ける楽しみを味わってもらいたい。フォントを変えることで、パソコンからプリントする年賀状や案内状の雰囲気がどれだけ変化するのか、ホームページのタイトルデザインがどれだけ楽しくなるか、知って欲しい。

そんな書体デザイナー達の思いが、インターネットのあちらこちらで芽を出しています。英文フォント・カタカナフォント・漢字まで揃ったフォント。そしてマジメなものからふざけたものまで。数多くのフォントが、無料あるいは有料で配布され、簡単に入手できるようになってきたのです。

好みのフォントを見つけ、そのデータをダウンロードし、自分のパソコンシステムにインストールすれば、そのフォントが使えるようになります。
自分の言葉や文章のイメージが、フォントによってどれだけ変化するのか、あなたも体験してみませんか? 

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