1997年 デザインの現場 2月号

国際タイプフェイスデザインコンテスト金賞

フォントのソフト、ハード両面にわたる総合メーカー、(株)モリサワが3年おきに主催する創作書体のコンテスト「第5回モリサワ賞・国際タイプフェイスコンテスト」において、書体デザイナーの佐藤豊氏がこのほど和文部門最高賞の金賞に輝いた(欧文部門金賞はフランスのデザイナー、ジャン・フランク氏)。

なお、佐藤氏はもうひとつの書体コンテストである(株)写研主催の「第9回石井賞創作タイプフェイスコンテスト」(86年)においても最高賞である石井賞を獲得している。定評ある2大コンテストの最高賞をともに受賞という快挙を氏は果たしたことになる。

今回の受賞作は和文本文用書体の「あさがを」。和文部門応募232点という激戦をくぐりぬけての栄誉となった。受賞作の特徴は、ゴシック体でありながら、筆記体に近い楷書風の骨格をもっていることだろう。ペン書きや筆書きと同じ右上がりのコンポジションをそなえ、右払いの線画を大きくするなど字画の長短にも手書きに近いアクセントがつけられている。ゴシックでありながら、本文用としての汎用性をそなえているところに、かつてない新しいコンセプトを感じる。

「日本人の眼に慣れたかたちで、なじみやすいゴシックにしてみました。筆記体を参考にすると、普通は筆文字のようになってしまうでしょう。そうではなくて、ゴシック体にしたことで、トラディショナルでありながら現代的にも見えるかたちになっているから、年配の人にも違和感なく読めるだろうと思います」と氏は制作意図を語る。

「タイプフェイスはひっかかりのあるかたちがあると、文章の内容をじゃましてしまう。読む人がなるべくスムーズに目が動くように、無理のない線を意識しました。ほとんど明朝体だけの今の文芸書の本文にも使ってもらいたいですね」。

実は、この受賞作は第3回コンテスト出品作(このときは落選)を踏まえて、再度の練り直しをくわえたものである。最初のものは、右上がりの度合いも少ないもっと地味な存在であったが、佐藤氏の愛着は深く、リメークを加えた今回の再挑戦となった。
「今度も派手な書体ではありませんが、審査員の方々に見出していただけてうれしいですね」と氏は素直に喜びを表す。

10代後半から4半世紀以上にわたって書体デザインにかかわってきた佐藤氏。この間、制作環境もパソコンの普及で大きく様変わりしてきた。氏は、7、8年前から「イラストレーター」と「フォントグラファー」のふたつのソフトによる設計に切り替えたという。そのことで、途方もないエネルギーと集中力が要求される書体設計の苦労は少し緩和されたのであろうか?

「手で書いてもマックで書いても同じです。マックだとシャープな線が引きやすいとか、線がはみだしたりしないのはよいのですが、やっていることは基本的に同じですから、簡単にはいきません。とくに、マックでは、初めから頭のなかでちゃんとイメージしていることがより大事になりますね」。

これまで「えれがんと」や「ハッピー」「キャピー」「わんぱく」など、マック対応を含めた数多くの書体を精力的に世に送り出してきた佐藤氏。今回の受賞作についても、可能であればモリサワとの緊密な強力態勢を組ながら製品化されることを願っている。実用化には最低7000字前後の字数が必要となり、幾多の困難が必然的にともなうが、ぜひ実現することを願いたい。

書体設計は文化の基底を支える重要な分野であるにもかかわらず、報われることの少なく、注目度も不当に低い分野だ。佐藤氏はこうした状況の改善に役立てばと、インターネットを利用した啓蒙活動を開始し、毎週「書体ウオッチャー」をホームページに掲載している。確かな足取りを刻むこうした氏の活動にこれからも注目していきたい。

文・臼田捷治


1987年 MONZ 10月号

書体デザイン界に新たな風を

去る6月に審査された「国際タイプフェイスコンテスト・モリサワ賞」。世界28ヶ国、380点(和文部門215点、欧文部門165点)と、世界各国から多数の応募作品が寄せられた。

その激戦の中、日本のデザイナーでは唯一人、欧文入賞を果たした佐藤豊氏。このコンテストでは、氏の持ち味である丸みを帯びた柔らかい線と、ゆるやかなカーブが生きた美しい作品を生み出し、世界のプロデザイナーの応募の中から2位入賞を手にした。

昨年の石井賞では、オーソドックスなやはり柔らかく黒みのある文字で1位に輝く。写研から販売されている「ラボゴ」、モリサワからの「わんぱく」、「タイプラボ」等、同氏の作品を目にしたことのある人も多いはず。

最近作では、電字システムからの「キャピー」。最近はマル文字が流行っているが、そんな現代的な楽しさ、軽さ、明るさをミックスした可愛い書体。若いマル字世代から、高齢者などにも無理なく読めるようにデザインされている。着実にタイプフェイスデザインに新風を吹き込み続ける佐藤氏に今回の入賞について聞いてみた。

「この書体は5年も前から基本的な形ができていたんです」と、5年前のデザインから何度も直しを入れて現在の形になるまでのラフスケッチや、紙焼き、一杯に赤字が入った古い原稿を前に出す。
段々と角が取れ、年月が経るにつれ、全体の雰囲気がまとまってくる。「一度書いてから、また時期を置いて見る。一歩さがった位置から書体の判断をしていく」。よい書体を創り出すには、判断する眼も持たねばならない。

この欧文書体は、文字の合間がほど良いリズムを持ち、アルファベットの一つ一つが持つ丸みを大切にした結果、柔らかいカーブが息付く様に並んでいる。とはいっても、日本語で育ち、漢字文化圏で生活する人間には、アルファベットの並び方がどのように視覚的な影響を及ぼすか、実際にはわからない。佐藤氏も、「海外の雑誌などを穴のあくほど眺めて、どんな風に文字が並んでいると本格的な欧文に見えるか研究を重ねた」という。

入賞を果たして、「やはり嬉しいですね。有力なデザイナー達に認められたのですから」と喜びを語る。また、このモリサワ賞は書体の優先的交渉権を一年間だけモリサワが得るもので、権利のすべてが没収されるわけではない。その点も、同氏が応募に至った要素のひとつ。

「タイプフェイスデザインは、とても時間がかかります。特に私のようにオリジナルの新書体を制作していると。日本の写植メーカーは、権利を買い取って独占したがる傾向にありますが、限定された機械にしか使えない書体になったら、巾広く普及しませんし、使う側が、不便でしょ。ですから、『わんぱく』『タイプラボ』『キャピー』などの私の書体は、モリサワさんや、電字システムさんの独占販売ではありません。他の会社からも販売される可能性を持っています。そのようにして、書体のロイヤリティが、我々デザイナーに還元されなければ、大切な制作意欲が消えてしまい、よいタイプフェイスデザインが生まれなくなってしまう。また新人も出て来ない」。

この入賞作品の今後の予定は、「モリサワさんで製品化していただけるならうれしいですね。そして、最終的には海外での販売まで行けたら…。」と語った。

●トップページへ